今回の人たらしシリーズは、鹿児島のローカルスーパーAZの牧尾社長のお話です。
僕は、いわゆる流通業に身を置いて30年以上になります。
いろいろな経営に携わる人々を見てきました。
- 商売人として才能にあふれ、それを発揮して成功する経営者。
- 人は、いいのだけど先見の明がなくて商売をたたむ経営者。
- 才能は並みだけど、地道にコツコツ働いて、なんとか事業を維持している経営者。
- お金儲けにとにかく執着して商売をしている経営者。
いろんなタイプの経営者がおられます。
そんな中で、僕の地元鹿児島に商売の常識を根底から覆すとんでもない経営者がいたのです。
この経営者は、人と人とのつながりを大切にし、地域とのつながりを大切にし、その過程で、人をたらし込み、信頼を築いていく。
その先に見えてくる「みんなの幸せ」、そのことを商売の理念とされています。
その経営理念が「利益第二主義経営」です。
利益第二主義!何じゃそれは!!(-_-メ)・・・ってなりますよね。
でも、この経営者、僕の眼から見たら、ある意味、正真正銘、大本命の「人たらし」経営者なのです。
目次
AZスーパー社長牧尾英二氏って、そもそも誰?
写真は、阿久根の長島へ通じる黒の瀬戸大橋
阿久根市は、鹿児島県の北部に位置する過疎の町です。人口2万数千人規模の小さな町です。
そこへ24時間営業、店舗面積18,000㎡という地政学的にも地理的にも、一般常識では、考えられない一見無謀と思われるほどの巨大スーパーAZを出店し、あっという間に地元の暮らしの正しく「とりで」としての地位を築きあげた人物がいるのです。
そのAZスーパーセンターの代表取締役社長が、牧尾英二氏です。
牧尾社長簡単プロフィール
メモ
1941年鹿児島県阿久根市に生まれる。1960年川内商工高校を卒業後、富士精密工業(現日産自動車)に入社。
その後、車関係の仕事に何回か転職した後、1982年帰郷し、マキオホームセンターの経営に乗り出す。1985年株式会社マキオを設立し、代表取締役社長に就任。1989年マキオプラザを開店。
1997年3月過疎化と高齢化が進む阿久根市に日本初の24時間営業の大規模小売店A‐Zスーパーセンター(現A‐Zあくね)を開店。
(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
利益第二主義経営とは?
商売をやるうえで、一見相反する経営理念と思える「利益第二主義経営」のお話です。
「小売業は、自分の天職である」と自分に言い聞かせて、天職であれば、損得よりも善悪を主体に取り組もうと牧尾氏は、決意していたというのです。
地元の高校を出て都会の自動車メーカーで働き、その後、故郷に戻ってきた牧尾氏が驚いたことは、田舎の方が都会より物価が高いということでした。
24時間営業も、もちろんなく、深夜営業している店もない。大型スーパーも出店しないような過疎の町では、地元のスーパーが売り手の都合であぐらをかいたような商売をしていました。
そうした田舎町の環境の中で、地域の人たちの役に立ちたいという一念で、いろいろ考えつくした末にたどり着いたのが、生活用品なら何でも揃う巨大スーパーセンターをつくること。
そして自社の利益を考える前に、お客様や地域ののことを考え、お客様に喜んでいただいた結果として、利益につながる経営を目指す。
そんな思いが膨らんでいきました。
しかし阿久根のような過疎の町に24時間営業の大型店舗は、常識的に無理とみなされ、許認可を与える行政も、融資を受ける銀行からも、無謀な取り組みと判断され相手にされなかったのです。
この規模であれば30万人の商圏人口が必要と言われました。
阿久根という町は、人口が少ないだけでなく高齢化も進んでおり、60歳以上の割合が40%弱に達しているのです。
商業立地としても条件が悪く、所得も低い。
ですから牧尾社長が思い描く事業は、銀行、地元経済界、経営コンサルタントのいずれも必ず失敗すると断言していました。
常識論で考えればそれが正論です。
僕も同じく事業としては成り立たない。
そう言うでしょう。
しかし牧尾社長の場合、儲けようという意識より、地域に貢献したいという思いの方が強く、たとえ商圏の人口が三万人であっても、来店する回数が3倍、買い物点数が3倍ならば、掛け算をすると27万人の商圏と同じになる。
そんな持論を持っていたのです。
そんな経緯もありながら、ひとつひとつのハードルを丁寧にクリアしていく中で、1997年3月、ようやくAZスーパーセンター阿久根の出店にこぎつけたのでした。
なんと最初の申請から11年もの歳月が過ぎ、その間、ずっと出店の連続申請し続けた結果でした。
常に損得より生活者を優先する
損得より生活者の暮らしを優先する。
具体策には、品揃えする商品を一般的なスーパー価格より8~10%安くして販売しています。
このやり方は、なかなか成り立ちにく価格政策ですが、AZの場合、正月とお盆以外は、チラシを出さないなど、徹底して販売管理費を抑えることで、実現したといいます。
また高齢者が40%程度いる阿久根市では交通機関が少なく、乗用車も使うことが出来ない高齢者の為に、安価での買い物バスの運行サービスまでしています。
そのうえ、60歳以上の高齢者、または、障害をもつお客様には、5%キャッシュバックもします。
売れなくても全て品揃え、お客様がいなくても24時間営業
AZでは、現在1店舗約35万品目の品揃えをしています。
当然、年に1個しか売れない商品もあります。ということは、本来死筋として、通常は定番から外されていくのですが、AZでは、安易に外すようなことはしません。
お客様から要望があれば、たとえ1点でも仕入れます。
例えば五右衛門風呂、1年を通しても2~3点売れればいいところですが、お客様から要望がある限り売り場を確保し置いておくのです。
さらに売り場には、仏壇、その他の生活に必要なものは、すべてと言っていいほど品揃えされているのです。
僕の個人的見解でいえば、釣り具関連の品揃えでは、県下随一です。へたな釣り具専門店より充実しています。
また24時間営業も夜中の2時から4時の時間帯は、お客様より従業員の方が多いということもありますが、「24時間やっているから、いつでも必要な時に買い物ができる」そういった意識のお客さまから来店頻度は、徐々に必ず上がっていく。そして店トータルで赤字にならなければいいという考え方も、ベースにあるのです。
人たらしの真骨頂は、現場主義、個人主義、自由主義
当初、立地が悪い、規模がバカでかい、商品点数も見境なく入れる、といったことが、小売業の経験者には、理解されず、従業員募集時に、なかなか人が集まらなかったといいます。
そのために地元の農業や漁業経験者の方々を集めて、事業をスタートさせたといいます。
こうした経験から、今でも素人中心に地元を優先して人の採用をしているのです。
さらに驚くことには、マニュアルや教科書はないというのです。
毎日の仕事を通してお客様から学ぶことを基本にしているといいます。
また、僕らも含めてですが、流通業に携わるものは、競合する他スーパーの動向をみて、おのれの店の良し悪しを見極め、改善につなげていきます。
これは、流通業界の常識です。この常識が否定されたことなど、僕の知る限り一度もありません。
ところがAZの牧尾社長いわく、「お客様から目を外すな!よその店を見るな!見るとマネをしたくなるから」と言っているのだそうです。
他の小売業の情勢を知れば知るほど、情報が多くなりすぎて、どれがいいのかが見えなくなる、という思いが牧尾社長には、あります。
そして僕が一番伝えたいこと。それが牧尾社長の人たらしとしての真骨頂が組織運営です。
AZには、230を超える商品部門があります。そのすべての部門が部門担当者に任されています。
仕入れから販売まで一切口を出しません。ラインとしての仕事だけでなく、資金政策は、経理の責任者に任せられています。
ここでも牧尾社長は、基本として口を出しません。まさに街の商店主が集まってAZ全体を形成させているという運営スタイルなのです。
創業以来、事業計画もなく、したがって販売会議もない。また定年もない。本人が働く意思があれば死ぬまで働けるなど、すべてにおいて個人の意思に任されているのです。
どうですか、うがった見方をすれば統制のとれていない烏合の衆にも見えないこともありません。
しかし、このスタイルで発展を続け、いまでは、この巨大スーパーセンターを3店舗に拡げていることを思えば、いかにトップである牧尾社長の人作り、組織作りが優れているかの裏返しにもなるのです。
そうやって作り上げたAZそのものが、現場・個人・自由を大切にし、管理ゼロで自分たちが創っていく組織になっているのです。
このような常識を超えた企業組織、人の組織を作り上げた牧尾社長は、もうどこから見ても「人たらし」の真骨頂としかいえません。
人を操らずして、大いなる目標に向かって人心をまとめ一つにしていく過程が見て取れるのです。
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まとめ
このように開店当初、行政、銀行筋、経営コンサルタントなど、あらゆる方面のプロフェショナルから失敗すると負の太鼓判を押されていたAZスーパーセンターは、業界の常識を覆して、大繁盛のお店となりました。
いまや鹿児島県下に同様の24時間営業の巨大店舗を3店舗有する優良企業として地位を確立しています。
利益第一主義が資本主義社会では、当たり前なのですが、AZスーパーセンターのようにお客様の利益を最優先に考え、従業員もそのことを理解する中で、売り場部門の管理を任されていく。
他スーパーの余計な情報などに惑わされず、お客様との直接のやり取りの関係の中で、売り場が作られていき、本当に地域に愛され、支持されるお店として成長していくのです。
その結果として利益も後から付いて来る。
これぞまさしく、人と人とのつながりの中で、お互いが成長しあう、その結果、地域の人々も、働く従業員も、幸せな暮らしへと導かれていく。
僕には、そんな姿が見えて来ます。
牧尾英二社長の思い描く理念にどこまで近づいているのかは、知る由もありません。
でも、これまでの牧尾英二社長の長年の取り組みの中に、しっかりとした信念に基づく「人たらし」術が垣間見えるのです。
AZスーパーセンターは、商売を通じて、お客様に貢献する。地域を活性化する。従業員にもいきいきとした充実感の中で働き甲斐をもってもらう。
そんな姿が僕には、感じられて仕方ありません。
AZスーパーセンター牧尾英二社長は、間違いなく「人たらし」術で人々を幸せに導く尊敬に値する人物です。
注;今回の記事は、ウサギとカメの経営法則(日本を元気にしてくれる18の会社)藤井正隆著(経済界)から一部引用しています。